キーボード(QWERTY経済学再考)

「利益にかかわるものから、アイデアにかかわるものへ」、それが本書のテーマである。

既得権益保護では、過剰規制や重税で、技術が裾野までにいきわたる長期的成長を期待できないからである。

あたらしい技術が生産性や生活水準に大きな影響を与えるようになるには、非常に長い時間を要する。(ノーベル賞的評価)

技術は単独で利用されているかぎり、生産性に大きな影響を与えない。

現在、貿易による所得格差の拡大では説明できないなかで、「QWERTY経済学」という分析手法が再び重要である。

タイプライターのキーボードの標準配列は、指の動きという観点からは、この配列が最も効率的であるというわけではない。しかし初期のタイプライターの構造では、あまり早く打つと、文字を打ちつけるアームが絡まるという問題があった。それゆえ少しゆっくり打たざるを得ないような配列の方が好ましいとされた。しかしそれはのちに電動化され、アームが絡まるという問題は解消され、より効率的なキーボードのデザインへ移行しても良くなったが、初期偶然採用されたこの標準配列の既得権益に阻まれ、時すでに遅しという状況になったのである。

ワープロからパソコンへの日本の対応も、ローマ字変換がなければ、技術そのものよりも、言語技術の壁に阻まれていたであろう。

確かに「選択の自由」は重要であるかもしれないが、受け手の機器がみな同じであれば、送り手の機器も同じように揃えることを余儀なくされるのもまた、狭い現実・事実の縛りである。

もし個人の自由な選択の結果が、このように社会的の不都合な結果へと固定されてしまったとすれは、個人の自由だけでは、決してうまく機能しないことを、アイデアの可能性は意味しているのである。

 

参考

「経済政策を売り歩く人々」    ポール・クルーグマン 著