解像度

本書は秀逸である。

匂いが味ともっとも大きく違う点は、基本臭という概念がないことである。色・光の基本は三つ、味覚には五つの基本味があるから、人工的な再現は作りやすい。受容体の関係が1対1対応であるからだ。しかし匂い成分は六から八種類くらいの受容体の結合パターンを脳に送るため、そのパターンは無数にあるが、その解像度は極めて高い。

そして匂い同士は単純な足し算ができないところから、マッチングにおいて予期しないパターンの変化も含むことも希ではない。

基本臭がないため、複合した匂いに一つ一つ「言語」を振り当てることができないゆえに、マルセル・プルースト氏のマドレーヌ効果が、記憶とともに人には甦るのである。そしてそれは記憶の高解像度を説明する。

 

参考

食の文化フォーラム36「匂いの時代」    伏木享 編