見立て

本書は、「見立て」をめぐる。

見立てとは、対象を「実在しないもの」になぞらえることである。そして対象を他のものになぞらえて表現するということは、何かを表現したい時に、それをそのまま描くのではなく、他の何かを示すことによって表現することである。それは「診断」や「選定」や「鑑定」ではなく、むろん「比喩」でもなく、「創造」の先取りである。

新劇は俳優と登場人物の間に存在する距離を、限りなく縮めようとすることからはじめ、現在では登場人物に合わせた俳優を選ぶところまで来てしまった。つまり役者も登場人物も同じであるから、現実と実在しか表現できない。とても実在を超えたものを創造することはできない。

しかし歌舞伎では登場人物と役者の間に横たわる距離を否定しない。役の背後には、常に役者という存在が確固として控え、役者が登場人物の中に埋没して消えてしまうことはない。

これはフロイト理論が自分を抑圧しなりすますのに対し、ユング原型は無意識を多様性として楽天的に創造することの対比と同じ解釈である。

 

 参考

「歌舞伎とはいかなる演劇か」    武井協三 著

新装版「自我と無意識の関係」    C・G.・ユング 著