何者

作品の「現場」に立つことで、言語はその装いを変える。

 

朝井リョウ氏は、学校で朝の健康状態を聞かれた時、「はい、元気です」というよりも、「はい、花粉症です」と言いたい願望に支えられていた。彼は現実に花粉症に悩み苦しんでいる人には失礼であることも知っていたが、何かを深く吸い込んでみたかったのだ。

 

中学のとき「地毛が茶色なんだよね」と言いたくて仕方がなかったとも言う。彼はそれが、反発・差別・地域、何らかの真実を語ることを知っていた。茶髪にしたかったわけではない。「地毛が」という部分が大切だったと言う。

 

彼は「言わない」が、そうした努力を人知れず積み重ねてきたのである。

 

参考

「東海の文学風土記」 坪内逍遥から朝井リョウまで  三田村博史 著