歴史と私的領域のバランスシート

「実のところ、私たちが歴史を持つものではなく、私たちが歴史の一部なのだ」

H・G・ガダマー氏は、歴史が内省的態度と自伝的記憶によって、再度私的なものになると論じた。

 

長期紛争経験の語りでは、このような言葉で聞き手は時々覆される。

「そのときはそれが普通のことでした」という発言である。

自分の語るものが「ひどく」、「邪悪」だったことを強調する一方で、その同じものがあくまでも「普通」であったとも語るのである。

 

しかしこう発言されるとより深く掘り下げて聞くこともできず、二の句もつげなくなるが、たぶん精神分析の方面からなら答えは出せるのかもしれない。つまり「再帰的に私的なものとなった歴史」は、自己の中で「バランス」を取ったのであろうと。

 

 参考

「紛争という日常」 北アイルランドにおける記憶と語りの民族誌   酒井朋子 著